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広島地方裁判所 平成3年(ワ)323号 判決 1993年5月19日

原告(反訴被告)

山田幸恵

右訴訟代理人弁護士

秦清

被告(反訴原告)

中村清司

右訴訟代理人弁護士

小笠豊

主文

一  原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、五一五万四六七三円及びこれに対する平成二年一月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告(反訴被告)の被告(反訴原告)に対する別紙目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務は、第一項で命じる金員を超えて存在しないことを確認する。

三  原告(反訴被告)及び被告(反訴原告)の各その余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを一〇分し、その一を原告(反訴被告)、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

1  原告(反訴被告。「以下「原告」という。)の被告(反訴原告。以下「被告」という。)に対する別紙目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  原告は、被告に対し、四九五〇万円及びこれに対する平成二年一月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行宣言

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  被告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  本訴請求原因

1  別紙目録記載の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

2  被告は、原告に対し、本件事故による損害賠償を請求している。

3  しかし、本件事故により被告に傷害が発生することはありえない。また、仮に傷害が発生したとしても被告は自動車損害賠償責任保険から四〇万円の支払を受けたので、これにより右傷害による損害はすべて填補されている。

4  よって、原告は被告に対し、原告の被告に対する本件事故に基づく損害賠償債務は存在しないことの確認を求める。

二  本訴請求原因に対する認否

1  本訴請求原因1、2の事実は認める。

2  同3のうち、四〇万円の支払があったことは認め、その余は争う。

三  本訴抗弁・反訴請求原因

1  本訴請求原因1と同じ。

2  責任原因

原告は、前方不注視の過失により信号待ちで停車中の被告車両に追突した。

3  傷害の程度

被告は本件事故により、頸椎捻挫、腰部挫傷、頸椎性脊髄症、変形性脊椎症、頸部椎間板ヘルニアの傷害を負い、そのため平田整形外科医院(以下「平田整形」という。)において平成二年二月二日に通院治療を、同月五日から二五日まで入院治療を受けた。

また、被告は、同年三月二日から同年四月二八日まで広島県立広島病院(以下「県病院」という。)整形外科に入院し(入院日数五八日間)、その間同年三月二〇日、第三、第四頸椎間前方固定手術等の治療を受け、同病院を退院後平成三年三月八日付けで症状固定の診断を受けたが、同年四月八日現在も同病院に通院治療中である。

4  後遺障害の程度

(一) 被告は、右第三、第四頸椎間前方固定手術により頸部の運動範囲が、前屈三五度(正常六〇度)、後屈三〇度(正常五〇度)、右屈四〇度(正常五〇度)、左屈四〇度(正常五〇度)、右回旋五〇度(正常七〇度)、左回旋四五度(正常七〇度)となり、その障害の程度は自動車損害賠償保障法施行令二条の後遺障害等級表(以下、「等級表」という。)第八級二の「脊柱に運動障害を残すもの」に相当する。

(二) その他、両上肢、両下肢の腱反射は亢進し、病的反射の出現をみることがあり、手指の巧緻性は低下し、両下肢の筋力も低下し、両上肢帯に圧痛点が存在する。

これは労働には通常差し支えないが、時に労働に差し支える程度の病的反射や疼痛が起こるものであり、等級表第一二級一二の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に相当する。

(三) 被告の後遺障害は、右第八級と第一二級相当の後遺障害を併せて等級表第七級相当と評価すべきである。

5  損害

(一) 治療費 二八六万一〇八〇円

(二) 入院雑費 一〇万二七〇〇円

一日当たり一三〇〇円として、七九日間の入院雑費である。

(三) 装具代 四万七九四六円

(四) 休業損害

(1) 被告は、自営のダンプトラックの運転手であり、本件事故前の平成元年一月二七日から同年一〇月二五日までの九か月間の収入は七七八万六一二五円であり、一か月当たり平均八六万五一二五円の収入があった。

(2) 被告は、本件事故のあった平成二年一月二七日から同年一〇月二五日までの約九か月間休業し、その間の運賃収入(ダンプトラックの賃貸料を含む。)は二七九万九八五〇円に減少したから、その間の休業損害は四九八万六二七五円を下らない。

(五) 逸失利益

(1) 被告は、前記三4(三)のように等級表第七級に相当する後遺障害を残しており、その労働能力の五六パーセントを喪失したものと評価される。

(2) 被告の平成元年の年収は一〇三八万一五〇〇円、平成元年一〇月の時点における年齢は四八歳、就労可能年数は一九年、そのホフマン係数は13.116であるから、逸失利益は七六二五万一七〇二円となる。

(右計算式)

10,381,500×0.56×13.116=76,251,702円

(六) 慰謝料

被告が本件事故により合計七九日間も入院し、その間手術を受け、更にその後一年余り通院治療を受けなければならなかったことに対する入通院慰謝料及び等級表第七級相当の後遺障害に対する慰謝料の合計額は、一〇〇〇万円が相当である。

(七) 既払金 四〇万円

(八) 弁護士費用 四五〇万円

原告の負担すべき弁護士費用は、反訴請求の一割に当たる四五〇万円が相当である。

6  よって、被告は、原告に対し、不法行為に基づき、右5(一)ないし(六)の損害合計額から同(七)の既払金を控除した九三八四万九七〇三円のうちの四五〇〇万円及び右弁護士費用四五〇万円の合計額である四九五〇万円及びこれに対する不法行為の日である平成二年一月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四  本訴抗弁・反訴請求原因に対する認否

1  反訴請求原因1、2の事実は認める。

2  同3の事実のうち、被告が本件事故により負傷したことは否認し、被告の平成二年二月二日から同年四月二八日までの入通院の事実は認めるが、その余は不知。

3  同4の事実は否認する。

4  同5の事実のうち、(七)の既払金が四〇万円であることは認めるが、その余は争う。

五  原告の主張

1  本件事故による傷害の発生について

(一) 本件事故は、被告車両がブレーキ操作をほどこさずに停車していたところに原告車両が衝突直前時速一一キロメートルで追突したものであり、この場合に生じる加速度は無傷限界に達する加速度よりもはるかに小さい。

被告の傷害(頸部椎間板ヘルニア、頸椎性脊髄症等)は、いずれも経年性若しくは過去の事故を原因とする既往症の症状で、本件事故前から存在していたものである。すなわち、被告には本件事故前から変形性脊椎症の既往症による耳鳴り、上下肢のしびれなどの症状があったもので、この既往症が悪化し頸椎性脊髄症と頸部椎間板ヘルニアが発症したのであり、本件事故がなくとも遅かれ早かれ右症状がでていたものである。

したがって、本件事故によって被告にヘルニアはもちろん、いわゆる鞭打ち症は発生しえず、被告に傷害があるとしても本件事故との因果関係はない。

(二) 仮に、本件事故と被告の症状との間に因果関係があったとしても、被告には右既往症があり、この変形性脊椎症という体質的素因が頸椎椎間板ヘルニアもしくは頸椎性脊髄症を発症させかつ増悪させたものであって、右(一)のように本件事故が極めて軽微な事故で正常な者には決して被告の被ったような傷害を発生させない程度のものであることを考慮すれば、本件事故の寄与の割合は二割以下である。

2  損害額について

(一) 被告主張の休業損害額は、被告がダンプトラックの運行によって収益を上げているのであるから、被告の事業の必要経費を控除すべきである。

(二) 被告は本件事故により後遺障害が生じたとして逸失利益の賠償を請求しているが、本件事故前後で比較すれば、被告の収入は減少していないし、稼働日数もほとんど差がないから、被告に後遺障害による労働能力の喪失は認められない。

六  原告の主張に対する被告の反論

1  本件事故前から被告に加齢による変形性頸椎症があったが、本件事故によって椎間板ヘルニアが出て脊髄の方へ飛び出し、脊髄を圧迫して脊髄症状(膀胱直腸障害、痙性歩行)が出てきたものであり、本件事故がこれの原因、少なくとも誘因になっている。そして、被告の右変形性脊椎症は中程度のものであって被告程度の年齢になれば通常のことであり、原告は原則として事故がなければ発生しなかったであろう損害の全部を負担しなければならない。

2  被告の本件事故前の稼働状況と事故後の稼働状況を比較すると、事故後は年間二五日稼働日数が減少している。これは月二回通院治療が必要等の後遺障害によるものであるから、月二日分すなわち一〇パーセント程度の労働能力を喪失しているとみるべきである。

第三  証拠<省略>

理由

一本訴請求原因1、2の事実及び本訴抗弁・反訴請求原因2の事実は当事者間に争いがない。

二そこで、被告の受傷及びこれに基づく後遺障害並びにこれらと本件事故との因果関係の有無について判断する。

1  本件事故の程度

<書証番号等略>によれば、原告は渋滞のため時速一〇ないし二〇キローメトルで原告車両を運転中、脇見をしたため、進路前方に停車中の被告車両をその後方4.4メートルに至って発見し、直ちにブレーキをかけたが間に合わず、ブレーキが効く間もなく追突したこと、右追突の衝撃は被告車両が移動することはなく前方向に揺れた程度であったこと、衝突直後、原告被告双方は車から降りて車の破損部位を確認し、被告は体には異常を感じなかったので、原告に対し、パンパーを変えるだけでよいと言って、そのまま自分で車を運転して帰ったこと、本件事故の結果、原告車両は前部バンパーに擦過凹損が生じ、ヘッドライトが破損したほか、その周囲の部分が多少損傷したこと、被告車両は後部バンパーにわずかに凹損が生じたこと、原告車両は軽四輪貨物自動車(車重は五七〇キログラム)で、被告車両は普通乗用自動車(車重は一一六〇キログラム)であったことが認められる。

右認定の事実によれば、原告車両が被告車両に衝突した衝撃はそれほど強いものではなかったものと推認される。

しかしながら、<書証番号略>は、自動車工学的立場からみて本件事故により被告にいわゆる鞭うち症が発症することは考えられないと結論づけているが、右見解は、原告車両の速度を時速一一キロメートルとしているうえ、乗員の身体的状況、体質、乗員は事故の発生を予期していないこと等を十分に考慮しているとはいい難いので右結論部分は採用できず、右認定の衝突の衝撃でもって被告に頸椎捻挫が生じることはありえないと断定することはできない。

2  被告の受傷、治療の経過及び後遺症

(一)  被告が、平成二年二月二日平田整形において通院治療を、同月五日から同月二五日まで同医院で入院治療を受けたこと、同年三月二日から同年四月二八日まで県病院整形外科において入院治療(入院日数五八日間)を受けたことは当事者間に争いがない。

(二)  <書証番号等略>によれば、次の事実が認められる。

被告は、本件事故直後には体に異常を感じなかったが、翌一月二八日になって項部に痛みが出て、同月二九日には腰痛が現れ、同日の夕方には吐き気を催した。被告はダンプトラックの運転手であるところ、その仕事は同年二月一日まで続けたが、左手足がしびれてきて運転操作が不自由になり、同月二日、平田整形において診察を受けた。平田医師は診察の結果、頸椎の動きが前後左右に非常に制限されていること、肩甲背神経、肩甲上神経は両側に圧痛が認められたこと、第六頸髄神経から左の第一胸髄神経にかけての左上肢に知覚鈍麻が認められたこと、ホフマン反射が左に陽性で病的反射が認められたこと、第五腰椎の棘突起に圧痛が認められたことから、頸椎捻挫及び腰部挫傷の診断を下し、被告は、同月五日から平田整形に入院した。

そして、平田医師は、被告の頸部の安静固定等の保存的治療を施したものの項部痛、左上肢の放散痛及びしびれ感が残り、神経根症状がとれなかったことから県病院での診療が必要と考え、同月二五日に被告を退院させ、県病院に紹介した。

被告は同月二六日に県病院整形外科の渡医師の診察を受けた。同医師は、被告に神経根症状のほかに両手両足に知覚障害があり、四肢の腱反射が亢進し、通常は現れない病的反射が現れていることから、被告のこれらの症状は脊髄が直接に圧迫されて出てくる脊髄症状であると判断し、頸椎性脊髄症、変形性脊椎症及び頸部捻挫と診断した。そして、同年三月一日被告の歩き方が足を引きずるような痙性歩行となっていて、急激に脊髄症状が進行していると認められたので、被告は翌二日同病院に入院した。入院後の検査によっても、被告に排尿排便障害、痙性歩行、知覚障害が認められたうえ、MRI検査により第三頸椎と第四頸椎の間の椎間板が後方に突出し、脊髄を圧迫していることが認められたことから、手術することになり、同月二〇日、脊髄を圧迫していた突出した椎間板(ヘルニア)を摘出し、そこに腸骨の骨を一部削り取ってはめ込む前方固定手術が行われた。そして、被告は同年四月二八日退院し、その後も県病院に通院し(実日数一七日間)、平成三年三月八日症状固定の診断を受けた。右手術により被告の脊髄症状は大幅に改善されたが、脊髄が圧迫されていたため完全には消失せず、結局後遺症として、両上肢、両下肢の腱反射が亢進し、一部に病的反射が少し出る傾向があり、また、筋肉の力が弱くて持久力がないといった脊髄障害が残存し、更に、第三、第四頸椎間の前方固定が行われた結果、頸椎部の運動領域が狭くなっており、その可動範囲が相当制限され、項部痛もある。

3  原告の既往症

<書証番号等略>によれば、次の事実が認められる。

被告は、昭和一六年六月二三日生まれで本件事故当時四八歳であったが、昭和四五年に車を運転中に追突され四か月間入院し、その後一か月間通院したことがあり、また、昭和四七年には長さ五、六メートルの木材が頭部に当たって一日中意識不明になったことがあるほか、平成元年三月ころから耳鳴りがするとして同年一一月二八日に県病院において診察を受けた結果、脳硬塞と認められたことがある。

更に、被告は、平成二年一月二四日、一週間前から左手にしびれているような違和感があってジンジンし、左下肢に脱力感を自覚したことから同病院において診断を受け、頸椎のレントゲン撮影の結果により椎間板の軟骨が変性しているのが認められ、中程度の変形性脊椎症と診断された。

4  変形性脊椎症等と脊髄症との関係

<書証番号等略>によれば、次の事実が認められる。

(一)  変形性脊椎症は、加齢又は退行による背椎の変性により変形した椎間板が上肢に繋がる神経の根元の部分を刺激し、神経根症状を生じさせるもので、初期の段階においては肩、首に痛みを生じるが、症状が進むと手先への放散痛が生じ、手にしびれを感じるようになり、更にひどくなると運動神経の麻痺も生じる。しかし、これらの症状は保存的治療で改善され、あるいは、自然に緩解し、手術を行う場合はほとんどない。

(二)  被告の脊髄症は、椎間板内にある髄核が脊椎管内に飛び出してヘルニアとして脊髄が圧迫されて生じたものであるが、右ヘルニアは、健康な椎間板であれば生じないが、椎間板に退行変性(変形性脊椎症)があって、ヘルニアが生じやすい状態になっているときに、外傷等の外力を契機として生じるものである。しかし、右退行変性が非常に大きくなっている場合は、くしゃみ等の日常的行動によっても右ヘルニアが生じることがある。なお、その場合には電撃痛が走り、本人に原因の自覚が可能である。

また、脊髄症は外傷的機転があってから直ちに発症しないで、約一週間後に発症する場合が比較的多い。

(三)  被告が平成元年一一月二八日に診断された脳硬塞はそれ自体はほぼ無症候性のもので、手のしびれとは全く関係がなく、脊髄症の症状と重なり合うことはない。

5  因果関係の判断

右認定の1ないし4の事実に証人平田悦造及び同渡捷一の各証言(第一、二回)を総合すれば、本件事故により被告は頸椎捻挫の傷害を負い、また、被告には中程度の変形性脊椎症があって、ヘルニアが生じやすい状態であったときに、本件事故による衝撃により椎間板内の髄核が飛び出してヘルニアとなり、それが脊髄を圧迫して脊髄症になり、前記認定の後遺障害が残ったものと認めるのが相当である。

したがって、前記認定の被告の受けた傷害及びこれに起因する後遺障害は本件事故と相当因果関係があるというべきである。

三しかし、被告は、本件事故当時変形性脊椎症の疾患を有し、左手がしびれ、下肢に脱力感を感じるほどの症状を呈していて、ヘルニアを生じやすい状態であったために、本件事故は追突の衝撃がそれほど強いものではなかったのに被告に前記脊髄症が生じ、そのため、本件事故のみによって通常生ずべき損害の範囲、程度を超えて被告の損害が拡大したものということができ、このような場合においては、損害の公平な分担という損害賠償法の理念に照らし、その全損害を原告に負担させるのは相当ではなく、民法七二二条二項を類推適用して被告側の前記諸事情を考慮して損害賠償額を定めるのが相当である。そして、本件事故当時の被告の変形性脊椎症及びその症状(被告と同年齢程度の健康な者は手がしびれたり、下肢に脱力感を感じたりしない。)、前記脊髄症発症の経緯並びに本件事故の程度等を総合勘案すれば、被告の受けた脊髄症等の傷害に対する本件事故の寄与の割合は五割をもって相当と認める。

四損害

1  治療費

<書証番号略>によれば、本件事故による被告の平田整形及び県病院における治療費は、被告主張のとおり二八六万一〇八〇円であると認められる。

2  入院雑費

被告は本件事故により合計七九日間入院し、その間の入院雑費は一日当たり一二〇〇円を認めるのが相当であるから、合計九万四八〇〇円となる。

3  装具代

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、被告は、治療のため装具代として四万七九四六円を要したことが認められる。

4  休業損害及び逸失利益

<書証番号等略>によれば、被告は、自己所有のダンプトラックを運転して広島市南区宇品三丁目六番一八号所在のみつぎ産業株式会社から請負う真砂等の運搬の仕事をしていたところ、本件事故により受傷したため、平成二年二月三日から同年七月一五日までの一六三日間就業できなかったこと、被告の平成元年の事業収入は一〇三八万一五〇〇円、固定費を除く経費(軽オイル代、修繕費、部品代等)は五〇五万八五二七円であったこと、被告は、右休業したため、平成二年二月五日から同年三月二二日までの間ダンプトラックをみつぎ産業株式会社に賃貸し、その賃料として少なくとも一八万四〇〇〇円(二月分の収入三四万二六〇〇円のうち、賃料は少なくとも一〇万円はあると認められる。)を受領したこと、被告は同年七月一六日から仕事に就いたが、前記脊髄障害等が完全には治癒していなかったため以前のようには就労できず、同日から同年一二月二五日までの間の右会社からの収入は三九四万五九五〇円であったこと、同年一二月二六日から平成三年一二月二五日までの収入は一〇六八万六三〇〇円であり、平成元年の収入より三〇万四八〇〇円増加しているが、これは、運賃収入の時間単価が二〇〇円高くなったことによるものであり、就労日数は、前記後遺障害や一か月二日間通院せざるをえないこと等により一か月平均二日間減っている(一か月二五日就労するところ二三日就労)ことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

してみれば、被告は、平成二年二月三日から同年七月一五日までの間、平成元年の事業収入から右認定の経費(休業すればこの経費の支出は免れる。)を控除した収入金額五三二万二九七三円のうち、二三七万七一〇八円(5,322,973円×163/365)の収入を失ったが、その間ダンプトラックの賃貸収入一八万四〇〇〇円を得たのでこれを控除すると、右間の休業損害は二一九万三一〇八円となる。

そして、同年七月一六日から同年一二月二五日までの間(一六三日)の収入は、平成元年度の収入と比較すると、六九万〇一七一円(10,381,500円×163/365−3,945,950円)ほど減少し、前記経費率0.487(5,085,527円÷10,381,500円)の割合で固定費を除く経費を控除すると、三五万四〇五七円となるので、同金額が右間の逸失利益となる。

平成二年一二月二六日からは、本件事故前より一か月二日間就労日数を減らさざるをえないから、労働能力を二五分の二すなわち八パーセント喪失したものと認めるのが相当である。そして、前記認定の被告の後遺障害の内容、程度が筋力の低下や頸部の運動制限等であること並びに右認定の労働能力喪失の程度等を勘案すれば、労働能力喪失の期間は五年と認めるのが相当である。

前記認定の本件事故前年の平成元年の事業収入一〇三八万一五〇〇円から固定費を除いた経費五〇五万八五二七円を控除した五三二万二九七三円を基礎に新ホフマン方式(係数4.364)により計算すると、平成二年一二月二六日から五年間の逸失利益は一八五万八三五六円(5,322,973円×0.08×4.364)となる。

以上により、休業損害及び逸失利益の合計額は四四〇万五五二一円となる。

5  慰謝料

(一)  入通院慰謝料

被告の傷害の程度、入通院期間、頸椎の前方固定の手術を受けたこと等諸般の事情を考慮すれば、一五〇万円が相当である。

(二)  後遺障害慰謝料

後遺障害の内容、程度及び本件事故前に変形性脊椎症によるものではあるが、左手にしびれ、下肢に脱力感があったこと等を考慮すると、一二〇万円が相当である。

6  損害額合計

右四の1ないし5の損害の合計は、一〇一〇万九三四七円となる。

7  右損害額の合計から五割を減額すると、五〇五万四六七三円となる。

8  損害の填補

被告が四〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがないので、右損害額からこれを控除すると、四六五万四六七三円となる。

9  弁護士費用

本件事案の内容、認容額等に照らし、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、五〇万円が相当である。

五結論

以上によれば、原告は、被告に対し、五一五万四六七三円及びこれに対する不法行為の日である平成二年一月二七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるので、被告の反訴請求は右の限度において理由があるとして認容し、原告の本訴請求は、原告の被告に対する損害賠償債務は、右金員を超えて存在しないことの確認を求める限度において理由があるとして認容し、その余の本訴請求、反訴請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官吉岡浩 裁判官福士利博 裁判官土屋靖之は転補のために署名捺印することができない。裁判長裁判官吉岡浩)

別紙目録

一 発生日時 平成二年一月二七日午後七時一〇分ころ

二 発生場所 広島市安芸区矢野西一丁目三番八山野方先路上

三 加害車両 軽四貨物車(広島四〇ふ九三五)

四 右運転者 原告(反訴被告)

五 被害車両 普通乗用自動車(広島五五ろ三〇二二)

六 右運転者 被告(反訴原告)

七 事故態様 右路上に停車中の被害車両に加害車両が追突した。

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